ご夫婦であらためて決意していただきたいなと思うことがひとつあります
私はどなたの出産時でも、赤ちゃんが生まれ、へその緒を切るときに「お母さん、へその緒をきりますよ」とお知らせします。それは母と子の別れの一瞬でもあります。お子さんは、生まれてしまったら、お母さんの子宮にいたときのように、へその緒から栄養をもらうわけにはいかないのです。
子別れというのですから、出産後さびしくなって涙がでるでしょうか?
いえ、みなさんうれしくて泣いてらっしゃいます。
なぜ涙がでるのか、皆さん気づいていないかもしれませんが、ただただ命を無事に授かったからではないかと思います。こんな小さい体でよくぞがんばって生まれてきてくれたと感謝しますね。本当に美しい涙です。
さあ今日からお子さんはお腹がすいているのか、どこか痛いのか、なにかサインを出してくれないとわからない。胎動のように、お母さんの実感としてはもう伝わらない。
これから、どうすればいいのでしょうか?
でもお母さんは、お子さんの何かを感じとれるように、そして可愛くてしょうがないという感情で、だっこするでしょう。そしてなにかを伝えるためにお子さんは泣きますね。だっこすればするほど可愛くなりますね。そのうち、だっこするとお子さんは笑ってくれるようになる。
そのサインの交換こそが母子の成り立ちでもあります。
それは原始的な行動かもしれませんが、母と子の崇高な成り立ちの時なのです。
そして、ご夫婦はこれから命を預かって一人の人間を一人前にする決意をしなければなりません。
なにがあっても育てるのです。厳しいですか?
赤ちゃんはおっぱいを飲むとき、おっぱいをお口に持って行ってあげれば、自然に自動的に飲めるように、吸う反射を持って生まれてきます。お母さんに教わらなくても最初は自分でできるのです。何もわからないお母さんも、ちゃんと赤ちゃんにおっぱいを飲ませられるようにできているのです。
そういう力を持って赤ちゃんはうまれてきます。
本当に持ちつ持たれつ、お母さんとお子さんの一つ一つのふれあいで、親子ができあがっていきます。
お子さんは授かりもの、ご夫婦の所有物ではありません。気に入らなくなった洋服のように、リサイクルに出し、廃棄するわけにはいかないのです。
お子さんは頑張って自分の精一杯の力でおっぱいをのみ、ご飯を食べ、歩き、お話しし、友達をつくり、本を読み、…。独り立ちしていきます。親御さんはそのお膳立てをし、手をそえながらそれをじっくりと見守っていってください。
一人の人間として尊厳をもって見守りながら、独り立ちのお手伝いをなさってくださればいいのです。
もちろんお父さんは働いて家族を守り、お母さんは生きていくための衣食住の知識と方法、善悪の倫理、人間としての愛情などさまざまなことを細やかに教えていかなければなりませんが、一生かかって、厄介な、それでいてとても楽しくやりがいのある仕事を請け負ったことになりますね。ご夫婦そろってゆっくりあせらずに成し遂げてください。
子供はどの子も社会の宝となっておおきくなるのです。子供の成長は何にも代えがたくうれしいものです。
お産が終わるとすぐ、お子さんが何をしてほしいのか、どうしたらうまく育ってくれるのか、手探りで探すことがはじまります。悩んで泣けてきたり、すこしでも何かお子さんができるようになったら、またうれしくて涙が出ます。本当にいとおしく、かけがえのない存在ですね。だから、よけいに迷うのですね。
どうしたら一番良い方法なのかと。
わからなくなったらご両親をはじめ、知人、友人、そして専門家に臆せず相談してください。そのためにご家族がいらっしゃり、我々産婦人科があり、小児科、保健所、教育機関などがあるのです。
何も考えすぎることはありません、子供は基本的な生きていく力を母からもらって生まれてくるのですから。そしてあなたがたもそうして育てられたのですから。子育てのノウハウは歴史のなかにあるのです。
妊娠がわかって、母子手帳を受け取るときの気持ちは、誇らしげでうれしくて…。待望のお子さんであればなおさらですね。
お父さん、お母さん、社会の大事な一つの命を育てていく覚悟はできていますか?
そのお気持ちは父として母として、とても崇高で気高いものです。
是非忘れずにいていただきたいと思います。